2011年 11月 05日
受城異聞記
池宮彰一郎
「受城異聞記」
文春文庫
470円(税込)
★★★★★
「受城異聞記」「絶塵の将」「おれも、おまえも」「割を食う」「けだもの」の短編5編を納めた小説集である。本のタイトルにもなった「受城異聞記」は、以前、短編時代小説のアンソロジーに収録されたものを読んで、強烈な印象が残ったので、先天性アルツ系のボクにしては珍しく、細部に至るまでよく覚えていた。再読した格好になったわけだが、自ら死地に赴く武士たちの美しさに一層感動を覚えたことであった。
江戸時代に頻発した百姓一揆のなかでも名高い「郡上宝暦事件」というものがある。百姓一揆は、いくら百姓の側に正義があろうと、通常は首謀者に対する極刑という形で収束が図られる。しかし、この事件で幕府は、老中の降格など幕閣内部での処分にまで手を染めた。前代未聞の大事件になったわけだが、一揆に対する対応を問われた金森藩も、当然ながら改易、取り潰しとなった。
で、話は隣藩の大聖寺藩に飛ぶ。藩境を接する大聖寺藩に陣屋と高山城の接収が命じられるのである。これには、幕府の陰険な企みがあった。期限までに接収が行われないときは、大聖寺藩も取り潰してしまおうという腹なのだ。
季節は冬。隣藩とは言え、それはあくまで地図上のことであって、両藩の境には標高2700メートルの白山が聳えている。厳寒の白山を武装した武士たちが、死を覚悟して越える。そして、向かった武士団の大半が遭難死、凍死するなか、わずか数人ではあったが、この死の行軍を成功させた者たちがいた。その壮絶な自然との闘いに挑んだ武士と、それを全藩を挙げて支援した大聖寺藩の物語だ。
池宮彰一郎といえば、時代小説の巨匠司馬遼太郎が築き上げた司馬史観を、意識して乗り越えようとした作家として知られる。名作「島津奔る」や、映画化もされた「十三人の刺客」(再映画化されたものを今年観た)などの作品にも、その意気込みが十分にうかがえたが、短編の分野においても、池宮史観とも呼ぶべき眼差しが感じられる。
by osampopremium | 2011-11-05 00:25 | 池宮彰一郎 | Trackback
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