果つる底なき
2012年 03月 17日
池井戸潤
「果つる底なき」
講談社文庫
680円(税込)
★★★★★
江戸川乱歩賞受賞作であると同時に、銀行ミステリという新分野を切り開いたという点でも、特筆すべき一作である。元銀行員の手になるだけに、金融の仕組みをトリックに仕立てる手腕はさすがと言うべき。
「これは貸しだからな」という謎の一言を残して、債権回収担当の同僚坂本が死んだ。車の中で蜂に刺されたショックが死因。警察は事故と殺人の両面から捜査を開始するが、伊木は坂本の業務を引き継ぐ中で、常識では考えられない痕跡に気付き、これが殺人であるという確信を抱く。単独で調査を進める伊木が直面するのは、「果つる底なき」銀行の暗闇であった。
手形の仕組みであるとか、和議であるとか、あるいは銀行の業務内容であるとか、そういう専門知識がない人にはちょっと読みにくいと思う。しかし、そういう金融の世界がトリックになるという点で、きわめて鮮烈なミステリが構成されている。ぜひ読んでおきたい一冊と言えるだろう。
by osampopremium
| 2012-03-17 01:37
| 池井戸潤