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キットの読書録


by osampopremium
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復興への一年





橋本紘二
「復興への一年
3.11大震災・原発災害の記録2」
農山漁村文化協会
1,680円(税込)
★★★★★

 写真家橋本鑛二の眼は、悲しみのあまりの深さに無遠慮に切り込むことをしない。土足で人の心に踏み込む報道写真を見すぎたボクらには、橋本の、人の悲しみに寄り添おうとする、ちょっと引いた目線からこそ、今回の惨禍の本当の悲しみが伝わるのである。他人の悲しみを理解しようとか、同情しようとか、そういう姿勢ではなく、悲しんでいる人と同じ場所にいること、その場所を写し取ろうとすること、そこから見えてくるものがこの写真集にはたくさんある。「心が詰まる」写真集である。
# by osampopremium | 2012-03-02 01:19 | 橋本紘二

アブラムスの夜





北林優
「アブラムスの夜
警視庁鑑識課」
徳間文庫
920円(税込)
★★★☆☆

 公園でホームレスの焼死体が発見される。目撃者の話では、少年たちがなぶり殺しにしたらしい。しかし、その目撃者の行動にも不審な点が多いし、そのうちに、被疑者と目される少年が次々に殺されるという事件に発展する。警視庁鑑識課の女性警部松原と、はみ出し刑事権堂は、それぞれ違う角度から事件に迫る。
 鑑識という、シロートにはちょっと分かりにくい警察活動を通して、少年犯罪の闇に迫ろうとするストーリー展開である。けっこう面白い。でも、事件そのものがきわめて陰惨だし、結末も後味が悪い。すかっとした読後感がないし、文体も重いので、読み終えた後に疲れが残った。作家は美人だし、警察小説の範疇にあってちょっと異質の分野を扱っているため、マニアの間ではけっこう評価の高い小説のようだが、ボクには敷居が高い感じがした。
# by osampopremium | 2012-03-01 01:17 | 北林優

メシアの処方箋





機本伸司
「メシアの処方箋」
ハルキ文庫
861円(税込)
★★★★☆

 小松左京賞受賞の「神様のパズル」に続く長編SFである。地球温暖化の影響で増水していたヒマラヤの氷河湖が決壊した。そして浮かび上がったのは、なんと古代の「方舟」、樹木も生えぬ高地に文明の跡があったというだけでも驚愕ものなのに、その方舟の中から大量の木簡が出た。しかも、それらには不思議な蓮華模様が刻まれている。古代文字とも見えぬそれらの文様には、なんらかのメッセージが込められているようだ。
 ということで、その謎解きと、謎が解けた結果として巻き起こる驚愕の事件が本書の読みどころである。ネタばれになるのでここから先は書けないが、なんともはや、SF作家ってのは、よくもまあこんな奇想天外なことを考えられるものだと開いた口がふさがらない。それに、たいへん申し訳ないが、科学音痴のボクには理解不能な部分が多々あって、ストーリーの面白さのたぶん半分も頭に入っていないと思われる。生化学だの遺伝子だの、そういう方面に詳しい人なら、おそらくすごく面白く読めるんじゃないかと思う。事実、この本、よく売れたらしい。
# by osampopremium | 2012-02-27 01:15 | 機本伸司

せちやん 星を聴く人





川端裕人
「せちやん
星を聴く人」
講談社文庫
540円(税込)
★★★★☆

 学校の裏山に「摂知庵」は呼ばれる奇妙な一軒家がある。少年三人組は、そこで奇妙な中年男と出会い、この男の導くまま、それぞれに「宇宙」に思いを馳せる人生を歩み始める。一人は詩人に、一人は音楽家に、そして、主人公「ぼく」は辣腕トレーダーとして巨万の富を手に入れる。しかし、還ってくる場所は「摂知庵」、そして「宇宙」への見果てぬ夢。
 悲しく、切なく、それでいて暖かいファンタジー小説である。どこか田舎の山の上で、一晩ゆっくりと星空を眺めてみたいと思った。
# by osampopremium | 2012-02-26 01:12 | 川端裕人

鉄の骨





池井戸潤
「鉄の骨」
講談社文庫
880円(税込)
★★★★★

 池井戸淳の本は、一連の銀行小説は概して小ぶり(面白いけど)だが、直木賞を受賞した「下町ロケット」や候補となった「空飛ぶタイヤ」に代表される企業小説はスケールが大きく、読み応えも段違いだ。この「鉄の骨」も読んで後悔しない。吉川英治文学新人賞に輝いた一冊である。
 現場で汗を流していた中堅ゼネコンの若手社員平太に移動命令が下る。行先は本社業務課、「談合課」と揶揄される部署だ。ゼネコン各社では脱談合を合言葉に体質改善の動きが出始めてはいるものの、談合なくして業界の存続はあり得ないのもまた事実、組織の防衛と正義感のはざまで悩みつつ、平太たちの崖っぷちの闘いは続く。
 最後のどんでん返しまで、息も継がせぬという感じで切迫したストーリーが紡がれる。登場人物たちの性格付けもよく、物語に深みを与えている。読み応え十分の一冊であった。
# by osampopremium | 2012-02-24 01:10 | 池井戸潤