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キットの読書録


by osampopremium
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太平洋の薔薇









笹本稜平
「太平洋の薔薇(上)」
「太平洋の薔薇(下)」
光文社文庫
各700円(税込)
★★★★★

 四方を海に囲まれた島国であるにも関わらず、日本にはろくな海洋小説がない、とはよく言われることである。皆無ではないとは思うが、ボクも同意見、非常に少ないとは言えるだろう。有象無象、アホみたいに海洋小説ばっかというイギリスに学ぶことはないが、もうちょっとなんとかせーよという鬱憤がある。
 だが、これを読んでしまった以上、少なくとも一冊はあると今後は断言できる。国際的にも立派に通用する海の男の物語である。
 船長柚木静一郎の最後の航海は、老朽貨物船「パシフィックローズ」で生ゴム一万二千トンを日本に回航することだった。その船が海賊に占拠される。しかし、海賊の目的は積荷ではなかった。柚木と乗組員たちが戦う相手は巨大な国際陰謀、そして荒れ狂う海。
 急ぎの用事が立て込んでいる人は、うんと暇になるまで読まないほうがいい。途中で止められなくなること必至だからである。また、涙もろい人はラストシーンに要注意、周囲に人がいないことを確認してから読んだほうがいい。
# by osampopremium | 2012-02-21 01:08 | 笹本稜平

真夏の島の夢






竹内真
「真夏の島の夢」
角川春樹事務所
1,785円(税込)
★★★★☆

 瀬戸内海に浮かぶ小島、鹿爪島にやってきたのは、海の家での住込みバイトの傍ら、秋の公演に向けての合宿をやってしまおうという男4人のコント劇団、そして、島のホテルで缶詰め執筆を強いられた女流ポルノ小説家とそのアシスタント。
 一方、この島には大規模な産廃処理施設があり、それに反発する島民がいる。その反対運動に巻き込まれる4人と、その4人を自分の小説のモデルにしてしまおうと企む女小説家、彼らを巡るひと夏のドタバタ喜劇、というか、青春小説がこの一冊である。
 「自転車少年記」で出会って以来、竹内真にハマっているが、「粗忽拳銃」で唸り、「風に桜の舞う道で」でお見それし、「じいさん武勇伝」で大いに笑わされ、そして、この「真夏の島の夢」でも楽しませてもらった。大いに感心するとか、深く感動するとか、そういう力作はひとつもないけれど、いずれも爽やかな読後感を残してくれたものばかりだ。ボクにとって、捨てがたい作家のひとりである。
# by osampopremium | 2012-02-20 01:05 | 竹内真

天空への回廊






笹本稜平
「天空への回廊」
光文社文庫
980円(税込)
★★★★★

 エベレストの山頂付近にアメリカの人工衛星が落下し、それによって引き起こされた雪崩に巻き込まれた日本人登山家の真木は九死に一生を売るが、パートナーのフランス人が行方不明になってしまう。親友の捜索を条件に衛星回収作戦に参加した真木だが、事件は思いもよらぬ方向に急展開、単なる回収作戦が国際陰謀へと変わってしまう。
 国際謀略小説、ミステリ小説としての読みどころ満載だが、それにも増して、本格山岳小説としての迫力が凄い。650ページを超える大部だが、ページをめくる手が止まらない。一気に読まされた。
# by osampopremium | 2012-02-19 00:48 | 笹本稜平

ネプチューンの迷宮






佐々木譲
「ネプチューンの迷宮」
ポプラ文庫
903円(税込)
★★★★★

 赤道直下の南太平洋の小国ボーレア共和国、この人口九千人ほどの小島は、採掘されるリン鉱石のみが国家収入のすべてという小国だが、そのリン鉱石の埋蔵量がほぼ枯渇しつつある現在、国の将来像を巡って、現大統領と、国外追放された元大統領派との権力闘争が進行しつつある。
 この島国に、大戦時の水没ゼロ戦の引き揚げ作業のために、元海上保安庁特殊救難隊隊長である日本人潜水士宇佐美が雇われた。時を同じくして、元大統領派が仕掛けた国際陰謀の幕が切って落とされる。宇佐美と、警察署長のムンゴグ長官は、否応もなくその事件に直面することになる。
 警察小説や、大戦秘話シリーズで大家の名をほしいままにする佐々木譲だが、国際謀略小説の分野でも文才がいかんなく発揮され、なかなか読ませる小説に仕上がっている。戦闘場面をもっと突っ込んで書いて欲しかったし、解決に至る道筋もちょっと端折りすぎみたいな印象があるが、総体として悪くない出来であった。
# by osampopremium | 2012-02-16 01:03 | 佐々木譲

螻蛄






黒川博行
「螻蛄」
新潮文庫
987円(税込)
★★★★★

 建設コンサルタントの二宮と、経済ヤクザの桑原、ご存じ「疫病神コンビ」が活躍するシリーズ第四作である。今回二人が仕掛けにかけるのは、信者500万人の大宗教法人。その宗教法人の内紛に付け込んで、宗宝である「絵巻」をかすめ取ろうというのだ。腐敗刑事、東京ヤクザを相手の切った張ったは言うに及ばず、詐欺師紛いの頭脳戦に挑む二人。例によって、大阪弁の掛け合いが潤滑油になって、ジェットコースター並みのスピード感あふれるストーリーが展開する。
# by osampopremium | 2012-02-15 00:57 | 黒川博行